第3回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2022 受賞者

大賞
「全身と指先」
吉岡 俊直

ゴムシートにシルクスクリーン 201×136cm  2021年

優秀賞
「ジェスチャー オブ ラリー」
澤田 華

インスタレーションビュー  2022年

優秀賞
「レースのインスタレーション」
森末 由美子

インスタレーションビュー 2022年

一般財団法人NISSHA財団賞
「ばたばた」
芦川 瑞季

リトグラフ 310×457cm  2022年

「第3回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 2022」報告

第3回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 実行委員長
木村 秀樹

「第3回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 2022」は、2016年の第2回展(第1回展は2013年)から6年を経ての開催となった。会場となる京都市美術館の大規模改修と、新型コロナ感染症の感染拡大を受けての延期であった。とはいえ第3回展の展示内容の充実ぶりは、前回前々回を凌ぐものであり、内外からも好意的な批評を多々頂く事となった。出品作家たちの意欲的な取り組みはもとより、推薦委員を始めとする関係各位のご協力の賜物である事は言を待たないが、同時に、肯定的あるいは批判的を問わず、本展の目指す方向性に対する認知度が、僅かながらも高まりつつあるという情況の変化を実感する事ともなった。
「 ‘80年代以降の版画、即ち、拡散の飽和の後に出現した多様性を引き受けた上で、「版画なるもの」を新たに発見し直す事は可能か?」*1という問題意識が、活動を遂行する前提として実行委員会に共有されていた思いである。その上で、実行委員会が目指した方向性は、「版画」の、ある一面を拡大/強調してみせると言うのではなく、現在の版画制作の現場の実態を、「平明に、偏り無く、直裁に」反映する舞台/枠組みの提供であった。実現の為に採用した方法、企画遂行の2本柱が、指名推薦制と広い展示空間の提供である。様々な不備や弊害を内包しつつも、自然発生的且つ自発的な批判/批評を誘発する事が出来る開かれた場として進化する為に、いまだ有効な装置であると認識している。
19組、20名の出品者による展示作品を対象に、4本の賞が設けられている。大賞を受賞した吉岡俊直氏は、‘90年代前半から一貫してコンピュータを活用した制作の可能性を探ってきた作家である。今回の出品作では、複数の2D映像を、アプリケーションを使って1つの3D画像に変換/統合する際に生じるズレや歪みを、写真製版のシルクスクリーン技法を通して捕獲し増幅する事に成功している。NISSHA賞を受賞した芦川瑞季氏は武蔵野美術大学大学院に在籍中の若き作家である。様々な技法を使って採集された断片的イメージをコンピュータに取り込み、再構成したイメージをモノクロームのリトグラフで描き直すという、複雑な手続きを通して創り出される作品は、新しい「描き」の可能性を感じさせた。優秀賞は共に関西をベースに活躍する作家が受賞した。澤田華氏は、本に掲載された写真の中に、偶然発見した「気がかり」を様々なメディアを駆使して探索/検証して行く。その発想と手続きの面白さが資料展示会場を思わせるインスタレーションに結実している。森末由美子氏は、レディメイドの通俗性に刺繍等の高級な手仕事を唐突/無謀に組み合わせて創り出された、奇妙にしてユーモラスなオブジェ群をインスタレーションにまとめた。デュシャンの射程圏にありながらも、別種の可能性を探る試みとして好感された。
推薦委員による1名の作家の推薦というプロセスを通過した出品作は、いずれも高い質を有するものである事は言うまでもない。技法や形式の多様性に加え、今やイメージ生成のインフラと化したデジタル/ネットワーク環境を与件として引き受けた上で、如何なる版画制作があり得るのか?各々の出品者の真摯で切実な取り組みを通して緊張感のある展示空間を公開できたものと信じている。

*1「1980年代の現代版画が問いかけたもの」国立国際美術館ニュース2016.4 213号