松元 悠
Matsumoto Haruka
2015 | 京都精華大学芸術学部メディア造形学科版画コース 卒業 |
2018 | 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻版画 修了 |
アートアワードトーキョー 丸の内2018」a.a.t.m.2018 三菱地所賞 | |
「松元悠|カオラマ」 京都芸術センター・京都 | |
2019 | 「血石と蜘蛛」 YEBISU ART LABO・愛知 |
「活蟹に蓋」三菱一号館美術館・東京 | |
「Aspects of Light」成安造形大学【キャンパスが美術館】・滋賀 | |
2020 | 「HER/HISTORY」岸和田市立自泉会館・大阪 |
「Kyoto Art for Tomorrow 2020 ―京都府新鋭選抜展―」京都文化博物館・京都 | |
「Kyoto Art for Tomorrow 2020 ―京都府新鋭選抜展―」京都新聞賞 |
2015 | BFA Kyoto Seika University |
2018 | MFA Kyoto City University of Art |
2018 | “Art Award Tokyo Marunouchi 2018” a.a.t.m.2018 Mitsubishi Estate Prize |
2018 | “Matsumoto Haruka | Kaorama” Kyoto Art Center, Kyoto/Japan |
2019 | “Blood Stone and Spider” YEBISU ART LABO, Aichi/Japan |
2019 | “A living crab is boild” Mitsubishi Ichigokan Museum of Art , Tokyo/Japan |
2019 | “Aspects of Light” Seian University of Art and Design University [Campus Art Museum], Shiga/Japan |
2020 | “HER/HISTORY” Kishiwada City jisen hall, Osaka/Japan |
2020 | “Kyoto Art for Tomorrow 2020–Selected Up-and-coming Artists’ Exhibition”The Museum of Kyoto, Kyoto/Japan |
2020 | “Kyoto Art for Tomorrow 2020–Selected Up-and-coming Artists’ Exhibition” Kyoto Shimbun Prize |
推薦文
新しい版画
江上ゆか(兵庫県立美術館 学芸員)
かつて、担当した展示の取材を受けていた時のこと。いくつかの質問のあと記者さんは、それで結局、と確かめるようにこう言った。「この展覧会で『新しいこと』は何ですか」。なるほどニュースというだけあって、誰も知らない新しい出来事こそ報じる価値がある。
松元悠は自分の身辺にあった、あるいはメディアで見聞きした、どこかひっかかる出来事をもとにリトグラフを制作する。彼女にとってのニュースを、ネットで調べ、現場に赴き、当の本人と同じ格好をしてみたりもして、掘り下げる。その手つきは、昨今流行のリサーチ系とくくってしまうのは少々ためらわれるほど、ねっとりした個人的関心に偏り過ぎている。もちろん21世紀の今ここに生きる作家なので、扱う内容は必然的に現代社会のあれこれにつながってもいるのだが、むしろ松元は下世話な三面記事的好奇心を隠さない。それでいて、我が身を取材対象に重ねることで浮かんできたイメージなり目に入ったものしか描かないという、妙に実直なリポーターの姿勢も兼ね備えている。
出来上がった画面は、あからさまに扇情的な衝撃的シーンとはほど遠く、一見、穏当な日常風景にも見えるのだが、登場人物の仕草や表情、状況のそこかしこに不穏な気配が満ちている。何とも落ち着かない居心地の悪さを、時に資料やテキストが添えられているので、解きほぐすことを期待し読んでみるのだが、結局、第三者にはよくわからない。それは決してネガティブな話ではなくて、松元の作品の場合はこの、どこまでいってもわかり切らないことこそ重要ではないだろうか。
そもそも私たちは何か新しい出来事を知ったとして、それをほんとうに理解したことなどあっただろうか。ニュースを受け止める側にいる以上、不幸な目にあうのはいつも他人である。大変だね、とか、気の毒に、などと共感のふりをして、日々どれだけの新しい不幸を消費していることか。そしてリトグラフこそ、かつて、そうした消費の拡大に寄与し隆盛をみたメディアではなかったか。
松元の執拗な試みは、いわゆる京都版画のシャープなイメージ操作とはまた異なる角度で版画のメディア性を問い(彼女は京都に生まれ京都に学んでいる)、リトグラフという今や風前の灯火たる版種に新たな世界を切りひらこうとするものである。