井上康子

Inoue Yasuko

1987 大阪府生まれ
Born in Osaka

2012 京都造形芸術大学大学院 芸術表現学科 芸術表現専攻 修了
Graduated the master’s program at Kyoto University of Art and Design.

2012 アートアワードトーキョー丸の内2012 行幸地下ギャラリー(東京) 後藤繁雄賞
“Art Award Tokyo Marunouchi 2012” Gyoko Underground Gallery, Tokyo, Shigeo Goto Prize

2012 「染め」という現象 染・清流館(京都)
“Signifying dyeing” MUSÉE DE SOMÉ SEIRYU, Kyoto

2013 Luciano Benneton collection Imago mundi Fondazione Querini Stampalia(ベネチア)
“Luciano Benneton collection Imago mundi” Fondazione Querini Stampalia, Venice

2013 個展「THERE IS A LEAP」 Gallery_Я(京都)
Solo Exhibition, “THERE IS A LEAP” Gallery_Я, Kyoto

2014 KUAD graduates Under 30 selected ギャルリ・オーブ(京都) 清水穣賞
“KUAD graduates Under 30 selected” Gallery Aube, Kyoto, Minoru Shimizu Prize

2014-15 京都銭湯芸術祭 京都市内の銭湯(京都)
“Kyoto Sento Art Festival” public bath in Kyoto city, Kyoto

2015 西会津国際芸術村 C塾 世界と世界を交換する exchange(y)our world展 西会津国際芸術村(福島)
Nishiaizu international art village C Lessons “exchange [y]our world” Nishiaizu international art village, Fukushima

推薦文

推薦者:清水穣(批評家・同志社大学教授)

ジェフ・ウォールはあるエッセイで、写真(アナログ写真)の歴史があまりにも「撮る」側から記述されていること、つまりストリートの決定的瞬間を舞台として記述されていることを批判し、写真のもうひとつの側面、つまり「プリント」の側面、現像液のなかで像を浮かびあがらせるという液体的な側面に、注意を向けている。写真とは、乾いた路上で生起する事件を記録するだけでなく、光がフィルムに刻み込んだ痕跡を、液体の中で紙に定着する=染め付けるものでもあるのだ、と。

井上康子の作品を初見したのは京都造形芸大のコンテストであった。染色作家でありながら、その作品が、ウォールの言う液体的な写真と染色の交点において制作されている点に興味を引かれた。往々にして、彼女のインスタレーションでは作品が天井から吊られ、ちょうどポジフィルムがそうであるように、染め付けられた画像を表と裏の両方から鑑賞することが出来る。版画とは異なり、染色においては、支持体面の上に色やインクの層が載るのではなく、染料を染みこませた支持体そのものが色面と化し、その画像は表裏をもたない。版画と写真においては、支持体が透明である(例えばアクリル板やシリコン膜)ときのみ、画像を裏から見ることが出来て、裏面をも考慮に入れた表現が現れる。言い換えれば、染色とは、透明な支持体の上に刷られた版画であると見なすことが出来る。ただし、透明な支持体のつるりとした光を反射する側面は存在しないし、画像と透明面の間のわずかな隙間も存在しない。完璧な表裏一体、究極の透明性が実現されているとも言えるのである。

私は井上康子という染色作家に「京都版画トリエンナーレ」というお題を与えたわけである。そのとき、液体としての写真、表裏のない表現、透明性がキーワードとなるだろう。彼女がどのような答を出すか、楽しみにしたい。