井出創太郎

Ide Soutarou

1966 東京都生まれ
Born in Tokyo

1991 愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了
M.F.A. Aichi Prefectural University of Fine Arts and Music

2006 渡部家住宅/その光と記憶 国指定重要文化財渡部家住宅(松山/愛媛)[2006-2009]
Watanabe family residence/Light and Memory Important cultural property Watabe family residence, Ehime [2006-2009]

井出創太郎+高浜利也「小出の家」 越後妻有アートトリエンナーレ(新潟)
Ide Soutarou+Takahama Toshiya Koide House Echigo-Tsumari Art Triennial, Niigata

2007 COLOURS OF EHIME 愛媛県美術館(愛媛)
COLOURS OF EHIME Ehime Prefectural Museum of Art, Ehime

2008 落石計画 旧落石無線送信局(落石岬/根室/北海道)[2008〜現在]
Ochiishi plan The old Ochiishi wireless sending station, Ochiishi, Hokkaido [2008 – the present]

2009 版で表す 東広島市立美術館
A Printing Express Higashi-Hiroshima municipal art museum, Hiroshima

落石計画東栄町スタジオ 愛知アートの森 旧新城高校本郷校舎昇降口(愛知)
Ochiishi plan Toei-cho studio, Aichi Forest of the Aichi Art. The old Shinshiro high school Hongo school building entorance, Aichi

2010 アイチ・ジーン 愛知県立芸術大学芸術資料館・はるひ美術館・豊田市美術館
AICHI GENE University Art Museum, Aichi Prefectural University of Fine Arts and Music/ Haruhi Art Museum/ Toyota Municipal Art Museum, Aichi

Double Diablegrig ロイヤルスコティッシュギャラリー(スコットランド/イギリス)
Double Diablegrig Royal Scottish gallery, Britain

2011 女木島/その光と記憶 MEGI HOUSE(女木島/香川)
Megi Island / Light and Memory MEGI HOUSE, Kagawa

2012 版と言葉 沖縄県立芸術大学付属図書・芸術資料館(沖縄)
Prints and Words Okinawa Prefectural University of Arts, Okinawa

推薦文

推薦者:杉野秀樹(富山県立近代美術館学芸員)

井出創太郎さんは、ソフトグランド・エッチングで植物の形状を紙に写す。しかし、珍奇な植物を選ぶことはない。野や山に自生する、ありきたりの草花を好む。それは多分、植物の姿形に惹かれるのでなく、そこに心情を投影しようとするからだ。だからこそ身近なものでなければならない。

まずソフトグランドで処理した銅の板に植物を乗せプレス機に通す。対象の形状は圧によって変形する。植物を取り除く際にソフトグランドもはがれ、思わぬイメージが露出する。しばらく原版を放置したあと、時間をかけて腐蝕する。自然の摂理に委ね、時を待つ。銅に緑青がふく。偶然に生成した緑青をもイメージの一部として刷り取る。ゆったり流れる時間の中で、作品が醸成される。

近年、井出さんは紫陽花をしばしば用いる。きっかけは祖父の死であるという。主亡き家の庭に立ち枯れの紫陽花を見つけ、そのさまが祖父の不在を告げているように思え、銅版に定着させた。また、たくさんの花が集まっている紫陽花が、祖父をおくる場に親族が参集した情景と重なり、この花に特別な思いを託すようになったという。

今回の出品作は、65×100cmの紙を4列4段と3列4段に組んだ2点である。どちらにも紫陽花を用い、ある風景を浮かび上がらせている。信州の浅間山である。そして作品のタイトルは「系譜の山」とある。

井出家のルーツは信州にあるという。作品タイトルから想像がつくように、浅間山に自身の系譜を投影している。浅間山は井出さんにとって、単なる山ではないのだ。今ある「生」から己の根源を探る上での道標として屹立する山なのだ。自身の帰属をテーマにした作品には、祖父の不在を意識させた紫陽花こそが似つかわしい。

銅版は西洋で考案・発達した技法である。井出さんはそこに偶然性と時間を、記憶や風土性をも加えて、いかにも「日本的」と形容可能な銅版画を作る。ここ数年来、日本の古民家再生の場に自作を持ち込み、伝統的な生活の場と銅版画を対峙させているのも頷ける。井出さんの創作活動は、日本の文化の中での銅版画を問う作業と思える。