冨谷悦子

Fukaya Etsuko

1981 愛知県生まれ
Born in Aichi

2005 東京藝術大学 美術学部油画科 卒業
B.A., Tokyo University of the Arts, Tokyo

2006 個展「棗菊」 山本現代(東京)
Solo Exhibition, Natsume-giku YAMAMOTO GENDAI, Tokyo

Alllooksame?/Tuttuguale? Art from China, Japan and Korea
サンドレッド・レ・レバウデンゴ財団(トリノ)
Alllooksame? Tuttuguale? Art from China, Japan and Korea
Foundazione Sandretto Re Rebaudengo, Turin

2007 東京藝術大学大学院 美術学部美術研究科版画専攻 修了
M.A., Tokyo University of the Arts, Tokyo

六本木クロッシング2007 未来への脈動 森美術館(東京)
Roppongi Crossing 2007: Future Beats in Japanese Contemporary Art Mori Art Museum, Tokyo

2008 個展「ランド・ブリーズ」 ダレン・ナイト・ギャラリー(シドニー)
Solo Exhibition, Land Breeze Darren Knight Gallery, Sydney

アニマル・ファンタジー イヌイト・アート&動物たち 北海道立近代美術館(札幌)
A MUSE LAND TOMORROW 2009 ANIMAL FANTASY Hokkaido Museum of Modern Art, Sapporo

2009 シティ・ネット・アジア 2009 ソウル市美術館(ソウル)
City_net Asia 2009 Seoul Museum of Art, Seoul

KAMI—静と動 日本現代美術展 ザクセン州立美術館銅版画館(ドレスデン)
Kami. Silence-Action—Japanese Contemporary Art on Paper Staatliche Kunstsammlungen Dresden

2012 FEAR OF LOSS 山本現代(東京)
FEAR OF LOSS YAMAMOTO GENDAI, Tokyo

2014 マインドフルネス!高橋コレクション展決定版 2014 名古屋市美術館(名古屋)
Mindfulness! Takahashi Collection 2014 Nagoya City Art Museum, Nagoya

推薦文

推薦者:荒木夏実(森美術館キュレーター)

冨谷悦子は、気が遠くなるような細かい作業を通して銅版画を制作する。主たるモチーフである動物や植物の、毛や葉脈の一本一本までを精密に描いていく。その表現は精緻で「リアル」なのだが、表現の過剰さが醸す雰囲気は超現実的である。

一般的に動物や植物は、美しく愛らしいものとして描かれることが多い。あるいは非人間的なもの、人間とは対照的な異質なものとして表現されることが多い。しかし、冨谷の動植物は趣が異なる。人間にかわいがられる対象、すなわち飼い慣らされているわけではなく、かといって自然界で生存争いを繰り広げる野性味を強調するのでもなく、ただ各々が自らの意思(すらもよくわからないが)に従って行動しているように見える。折り重なるように群れをなし、中にはちゃっかり誰かの背中に乗っている小動物もいる。しかし、そこにコミュニケーションや関係性は見当たらない。

そもそも冨谷の作品には、現存する生き物に加え、既に絶滅したか絶滅の危機に瀕するもの、空想上のものまでが混在する。それはフィクションであることを示すと同時に、人間の基準や理解を超えた、世界の有り様を想像させるものでもある。目に見えない微生物や菌類、地球外の生物など、人間の現状の知識や感覚にとって「ありえない」世界が広がっていることへの示唆。太古から未来、陸・空・海という時空を超え、生死すら超越した生命の存在を、宇宙的規模で感じさせるのである。

版画は、このような思索に導くための手法としてふさわしい。感情のほとばしりが直接的に表される絵画でもなく、重量感から抜け出すことの難しい彫刻でもなく、版画を選ぶことで、より緻密で合理的、理知的な説得力が生じる。ドローイング、版の制作、刷りという冷静なプロセスを経て生まれた表現から、甘さや思いつきを排した完成度と力量が感じられる。

「世界に隙間などないのだ。」と語る冨谷。熱意と冷静さを併せ持つ版画家は、これからも世界の検証と実験を進めていくだろう。