池田俊彦

Ikeda Toshihiko

1980 東京都八王子市生まれ
Born in Tokyo

2003 多摩美術大学美術学部油画専攻卒業
Graduated from Tama Art University

2005 東京藝術大学大学院美術研究科(版画研究室)修了
Completed the Graduate School of Tokyo University of the Arts

2007 平成17-18年度 文化庁買上優秀美術作品 披露展 日本芸術院会館
Japanese Agency for Cultural Affairs, [Best Art of the Year Selection] Announcement Exhibition The Japan Art Academy Hall

Prints Tokyo2007 町田市立国際版画美術館賞
Prints Tokyo 2007 [Machida City Museum of Graphic Arts Award]

2008 池田 俊彦 展 GALLERY ゆう
Solo Exhibition Gallery You

第7回 高知国際版画トリエンナーレ展 日和崎尊夫賞
The 7th Kochi International Triennale Exhibition of Print [Takao Hiwazaki Award]

2009 池田俊彦展 “静かなる抵抗” 不忍画廊
Solo Exhibition “Silent Resistance” Shinobazu Gallery

池田俊彦展 “心地よい水玉” 乙画廊
Solo Exhibition “A Confortable Polka dots” Oto Gallery

2011 第1回 ドローイングとは何か展 最優秀賞
The 1st Competition “What is Drawing” [Grand Prize Winner]

第5回 山本鼎版画大賞展 優秀賞
5th YAMAMOTO KANAE Print Grand Pre Competition [Excellence Award]

2013 文化庁在外研修員 イギリス ロンドン滞在
Research stay in London with the grant from the Japanese Agency for Cultural Affairs. Invited to join Printworks, London

2014 モンスターを探せ!! ピラネージからゴヤ、そしてエルンストへ 町田市立国際版画美術館
“Monster o Sagase – from Piranesi to Goya and Elnst” Machida City Museum of Graphic Arts

池田俊彦 展 “美しい角 Beautiful Horn” 不忍画廊
Solo exhibition “Beautiful Horn” Shinobazu Gallery

2015 PRISM WORLD PRINTMAKING 5 LONDON Embassy Tea Gallery(ロンドン)
PRISM WORLD PRINTMAKING 5 LONDON Embassy Tea Gallery, London

推薦文

老いの果て

推薦者:中林忠良(版画家)

1983年にレイエした版を再び腐蝕液に浸けて腐蝕、2時間ごとに取り出しては刷ってみたことがあった。結果、18枚のしだいにかすんでゆくイメージの刷りと、箔のように薄くなった版の残片を得た。その残片の縁に印された腐蝕痕はすさまじいものであった。ちょうどリアス海岸の入りくんだ海岸線や渓谷や河川の側壁に現われる浸食痕が、われわれが造っているエッチングの腐蝕そのものの意味だと知った。われわれは、それと知らずに地球規模の厖大な時間が造った大地の変容を掌の中でものしているようなものだったのだ。

池田は、他の銅版画のさまざまな技法を無視してまっすぐに腐蝕技法のエッチングでものを成そうとした。いわば直球である。それ以前のペンや鉛筆による線描、細密画の下敷きがあったにせよ、腐蝕するという行為に潜む、時間の経過による腐蝕溝の変化とそこから刷り上げられてくるインクの際立つ物質感が彼を捉えたようだった。腐蝕液の中で時間とともに画像を結んでゆく銅版、その時間との密接な関わりに池田は“老い”を重ねて見た。

ちょうど彼の祖母が痴呆症で入院していて、そこへの見舞いが銅版画という新しい制作を始めた頃だったのも幸いしたかもしれない。

院内で目にする痴呆老人たちの、現実離れした所作、着飾った老人たちの老いと死への狭間で繰り広げられる化身。それはまさしく腐蝕液の中で進行する腐蝕痕と重なって見えたことだろう。

直球といったが、ボーダーレスや何でもあり風な風潮の中でかたくなに古典的な腐蝕技法の、しかもそのしくみとの一体化を図ろうとする池田は、むろん貴重な作家である。

さらに池田は“老い”の果てを描こうとする。腐爛が次世代の蘇生を約束するように、老いの果ては位相された新たな生に循環されるのではないかとイメージしはじめている。

無数に打ち込む点の集積を腐蝕という自然の摂理にゆだねながら、近作は異形な生の形態を乗り越えてそこから見えてくるものを顕わにしようとする。それが池田の銅版画である。